腹腔鏡手術の開発により外科では胆石患者の開腹手術がなくなり、一方体外衝撃波による結石破砕装置の登場で、それまで日常茶飯事の泌尿器科手術だった尿路結石に対する開放手術が昭和63年度以降忽然としてたちの臨床から姿を消しました。
このように新しい医療機器による新しい治療法の出現は、時としてわれわれ医学界に大きな革命をもたらします。
ところで高齢者に多くみられる前立腺肥大症の治療も、これまでの開放手術、内視鏡手術に加えてより手術侵襲を少くなくし、合併症の多い高齢の患者さまでも安心して治療が出来るよう色々な装置とか治療器具が開発されつつあります。
例えば無駄な出血を無くすためレーザー光線を用いた前立腺の焼灼法とか、強力な高周波エネルギーを利用した前立腺の蒸散切除法など内視鏡下の手術にも工夫が加えられましたが、これらの術式は腰椎麻酔が必要で合併症をもつ高齢者では誰にでもと言う訳にはゆきません。そこでより侵襲の少ない尿道のみの局所麻酔で行える治療法も登場しました。
腫大した前立腺によって狭められた尿道に形状記憶合金で作られたコイルステントを留置し尿の出る道を確保する方法とか、拡張バルンで狭くなった尿道をいつ気に拡げる方法など、簡単な器具を利用し一時的にでも尿の出る道を確保しようとする試みもありますが、ここに紹介する前立腺高温度治療(transurethralmicrowavethermotherapy略してTUMT)は、家庭にある電子レンジと同じマイクロ波を利用し肥大した前立腺組織を50℃〜60℃に約1時間温め、その間尿道粘膜は冷却水を灌流して高熱から守り、また直腸内には3力所に光ファイバーによる温度センサーを設置し、熱による直腸への障害を防止しながら腫大した腺腫のみを温め、熱による同部の変性、萎縮を図るといった新しい治療法であります。
治療効果は根治手術のそれに近く、それでいて治療中殆んど出血は無く、簡単な麻酔で行なうことが出来、かつメスを加える捜査がない為入院期間も短くて済み、症例によっては外来治療も可能といったいくつかの利点に加え、今までの前立腺手術では術後精液が出なくなった(逆行性射精)との患者さまからの苦情がこの治療法では聞かれないなど、患者さまにとってみると大変有利で有難い治療法であり、私達医者の立場からみると今までの手術療法にはない奥の深いユニークな治療法と言えます。
前立腺高温度治療装置は幾つかのメーカーが開発したのですが、欧米諸国の泌尿器科医から、患者さまにとっての安全性、治療効果の確実性の面からもっとも高い評価を受けているフランス、エダップ・テクノメット社製の『プロスタトロン』を導入しました。
勿論、この治療法が、従来から行われて来た前立腺手術に取って代るものではありませんが、1996年春の米国泌尿器科学会に於いて発表されたプロスタトロンによる治療成績(過去4年間の追跡調査)を見ても、治療にあたった医師だけでなく治療を受けた患者さんから高い評価を受けた点が注目されます。
本治療の適応を考える時、腺腫が40グラム以上に腫大したものとか、膀胱内に強く突き出したものでは、マイクロ波による熱エネルギーの伝達が困難とされており、従って腺腫重量20グラム前後が最もその効果が期待されると一言われております。また自覚症では頻尿、夜間頻尿、残尿感の訴えに最も有効とされております。と言うことはただ合併症をもつ高齢者の治療だけでなく、肥大症の初期症状をもつ50才代、60才代の人々にむしろ予防的治療としての適応があるのではないだろうか等々、夢の多い医療機器であります。 |